ミステリーの分野に「日常の謎」というジャンルがあるとは知らなかった。駒子シリーズにひかれたのは、まさにそれだった。ちょっとしたこだわり。いつだって綱渡りには変わりないのだ。
「そう、君は鈴の音を聞いてしまった。だから諦めるのはまだ早いんだ。違うかい?」 「……違わない、です」 答えた私の顔はきっと、おかしな具合に歪んでいただろう。泣き笑いとでもしか、形容しようがない表情に。確かに瀬尾さんの言う通りだった。私は真っ暗闇の中で鳴り響く、かすかな鈴の音を聞いてしまった。手さぐりだろうとなんだろうと、そちらへ向かって進んで行くしかないじゃないか? 楽観に逃げている暇も、悲観に怯えている時間もない。今、するべきこと、というよりもできることはただひとつしかなかった。「走りましょう、瀬尾さん」 私が言い、相手はうなずいた。そして二人ほぼ同時に、弾かれたように駆けだした。 いつの間にか、みぞれは雪に変わっていた。」
引用が許されるなら、まさに、聴いてしまったから。だから前に進むしかないのだ。さあ、走り出そう!やるべきことは確かだ。